2023年総括 その1

<Albums>

1.THE ROLLING STONES『HACKNEY DIAMONDS』
Hackney Diamonds
18年ぶりの新作ということだけど、自分はその前作『A BIGGER BANG』を持っていない*1ので、18年ぶりという感覚を共有しているわけではない。というか、リアルタイムで新作を聴くこと自体が初めてってことか!
とにもかくにもAndrew Wattの仕事ぶりに最大級の賛辞を送らないわけにはいかないだろう。豊富にあった楽曲のストックから「ロイヤルストレートフラッシュになる組み合わせを彼が選び抜いたのだ」という証言にもシビれた。
収録曲のうち何曲かは「Mickのソロ」のほうが近いっていう指摘も散見されたけど、Mickのソロ諸作もKeithのソロ諸作も通ってないから、そのあたりわからず。でも、そのとおりだとしても、そうじゃなかったとしても、やっぱり総じてクオリティが高いのは事実で、その意味で感服。
こうなったら、来日公演観たいってのが人情というものだけども。例の「東京ドーム10日間押さえられないと実現しない」って話を聞いて無力感に襲われる。
ところで、18年前の2005年といえば、「Sweet Sounds Of Heaven」に参加したStevieの(目下のところ)最新作もその年に出たもので。Stevieにも傑作でのカムバックを果たしてもらいたいものだわね。


2.ARLO PARKS 『MY SOFT MACHINE
MY SOFT MACHINE
2022年のFUJI ROCKの配信で観た感想としては「いまいちピンとこなかった」と書いたんだけど、その理由はハッキリしてて。アルバム『COLLAPSED IN SUNBEAMS』の作風とArlo Parks本人の(現在の)モードとに乖離があって、しっくりこなかったわけなんだよね。そういう意味でいうと、今回のアルバムは本人のモードがそのまま投影されてて100%しっくりきた。なおかつ楽曲のクオリティが総じて高く、文句なしの名盤認定。
前作も詩作面で固有名詞の多用が目を引いたけど、今作は今作でDEFTONESの名が登場してファンとしてはなんか嬉しかったな。あと、これはアルバムとはまったくカンケーない話なんだけど、来日時、東京公演の前夜にHMVインストアライヴあったんだよね。それ観に行ったら、なんと本人ALTERNATIVE TENTACLESのTeeシャツ着て*2登場。あなた、そっち方面まで守備範囲ですか。感服。


3.ZULU 『A NEW TOMORROW』
A New Tomorrow [Analog]
昨年のSOUL GLOに続き、こちらも新しく聴き始めたバンド。POWER VIOLENCEと呼ぶにはあまりにもメタリックすぎると思うけど、こんなクオリティの高い代物にケチをつける気にはならない。アルバムとしての完成度にも舌を巻く。メタリックなハードコアとSOUL(あるいはレベルミュージック)を交互に織り成す構成は、確かにBAD BRAINSに由来するものとも思えるけど、個人的にはHEALTH HAZARDとかE.TOWN CONCRETEとかの仕掛けもちょっと想起したな。
中心人物のAnaiah Leiは兄弟デュオTHE BOTSとして2014年のサマソニに出演してるらしいね。今調べてみると、午前中のMOUNTAIN STAGEに出てたっぽいな。その時間だったら、オレはMARINE STAGEでVINTAGE TROUBLEを観てたと思われ。まあ、未来のZULUだってわかってたら絶対そっちを選んでたけどね。


4.GEZAN 『あのち』
あのち
やっぱり、サウンドよりも言葉が重要な作品だと思う。言葉のほうに共感できなかった人は本作を全然評価しなかっただろうなあ。J-POPやロッククラシックスのフレーズが全体に散りばめられてて、それらがレジスタンスとノスタルジーに転化されてる。個々の楽曲でいったら弱いかもしれないけど、ハナからそんな聴かれ方は想定してないとも思える。アルバム全体を聴き終わったときに、ネガティブな感情よりもポジティブな感情のほうが充填されるのは素敵なことよね。
多分、10年前の自分にだったら刺さってなかったかもしれない。自分はマヒトさんよりだいぶ歳を取っている人間だけど、若い世代のメッセージに感化されるような歳の取り方ができて良かったとは思ってる、少なくとも。


5.CLEO SOL 『HEAVEN』
Heaven
予想に反して(?)SAULT本体はおとなしくしてたものの、構成員Cleo Solのアルバムが9月に2枚連続投下された。
そりゃ確かにInfloはこの4年間世界中の音楽ファンを驚かせ続けてきたし、今回の2枚も彼によるプロデュースが光っている。もちろん、それには大いに賛同する。でも、一方で、Cleo Solっていう人の歌は(楽曲は)それ自体がとても魅力的で(単に「オレ好みだ」とも言い換えられる)、たとえInfloとの邂逅を果たしていなかったとしてもイチSSWの好盤として多くの人に作品が愛聴されていたであろうと思える。そう思わせてくれる楽曲の魅力をより強く感じるのが本作『HEAVEN』のほうだったので、こちらを『GOLD』よりも上位とした。多分世間的には逆で『GOLD』のほうが評価高いっぽいのかな。


6.IGGY POP 『EVERY LOSER』
エヴリ・ルーザー
STONESに続いて、こちらもAndrew Wattワークス。プロデュースのみならず、Chad SmithやDuff McKaganといった演奏陣まで含めOzzyの近作2枚とはほぼ同じ布陣ということになる。Ozzyのアルバムは去年のベストテンにも一昨年のベストテンにも入れなかったな。全然悪い作品ではないけど、ぶっちゃけOzzyに必要なのは「良きプロデューサー」以前に「良き相棒ギタリスト」の存在だと思う。
対して、Iggyの本作は楽曲そのものの充実度がかなり高いと思う。正直オレはIggyのキャリアを全然知らない(マジで『IDIOT』と『LUST FOR LIFE』しか知らない*3)のだけど、世間の求めるIggy像に合致したベクトルの楽曲がアルバム一枚分ちゃんと揃ってて素敵なアルバムだなあというカンジ。
さらにアートワークがPettibon画伯というのもポイント高し。まあ、人の顔を描いたアートワークじゃないから、そこまでPettibon感全開じゃないけどね。


7.iri 『PRIVATE』
PRIVATE [通常盤] [CD]
あいかわらずリリースペースが衰えない。個人的には前作『neon』を最高傑作だと思ってるので、それとの比較でいえば肩の力が抜けた作品だと感じる。でも、『neon』の後に(コロナ禍明けに)こういう風通しのいいアルバムをつくるのは理にかなってるし、完全に支持する。
楽曲面で重要なのは、海外のクリエイター*4とのコラボレーションを含むことかな。どんどん海外にも進出したらいいと思う。100%支持する。


8.GRAPEVINE 『ALMOST THERE』
Almost there [通常盤] [CD]
前作はとてもいい作品だと思ったけれど、大豊作の年だったのでベストテンにランクインさせられずじまい。
んで、今作。前作以上に気に入ってる、個人的には。ただ、一方で、前半にイイ曲を集中させすぎてる印象があって、後半が地味に感じてしまう。だとしたら、曲順を変えただけでも随分感じ方が違うのかなあ?
直接的な言葉づかいを多用したという田中氏の証言どおり、今作の詩作面は(GRAPEVINE史的には)斬新な限り。それがまたストレートな亀井曲と好相性なのかも。


9.LE SSERAFIM 『UNFORGIVEN』
LE SSERAFIM - UNFORGIVEN 1st Studio アルバム+ギフトフォトカード [韓国盤] ル セラフィム (DEWY SAGE ver.)
まあ、活動全体を見ると無駄なこともやっているように映るけど(音楽なのか芸能なのか、みたいな話)、作品そのもののクオリティは高いと思う。捨て曲もあると思うし、「もっとできるだろ」って思わないでもないけど、まあ、伸びしろと捉えて追いかけてみようかな。


10.CLEO SOL 『GOLD』
Gold
というわけで、『HEAVEN』よりも下に本作を。『HEAVEN』の項で書き忘れただけなんだけど、Cleo Sol本人の諸作にしろ、SAULTの諸作にしろ、歌詞が比較的平易な英語で綴られているので、英語力の低い私たち日本人もグッとくるポイントが多めがち。
コレクティブであるSAULTよりは、個人であるCleo Solのほうが来日の望みがありそうな気はするけど、どうなんでしょ。マジで観たいぞ、ライヴパフォーマンスを。


次点:JORJA SMITH、METALLICAMR.CHILDREN


2020年以来「コロナ禍で興行のほうがストップしたからこそ、全ミュージシャンはスタジオに入らざるを得ず、結果アルバムが量産されることになるのだ」という言説とともに、その言説どおりの大豊作な年が続いたわけだけど。個人的には、コロナ禍明けとともに大豊作は一段落したのかなと思える年だった。でも、まあ、そこは個人差があるだろうし、好きなアーティストのリリースが2023年にもたくさんあった人にとっては、「今年も充実!」ってカンジだったのかもしれないけどね。


めちゃくちゃ期待値が高かったJorja Smithは次点という位置づけに。アルバム前半は強力なのだけど、後半が弱く感じてしまう。後半にもパンチのある曲があれば、なあ。Kelela*5Corinne Bailey Raeも同じようなカンジ。「前半は良くても後半がなあ」って。
METALLICAはねえ、いかんせん「曲もアルバムも長いよ」っていう。あんなに長い必然性をまったく感じないので。ひとつひとつのリフには何も文句はないんだけどね。リードトラックのサイズ感の曲を10曲集めただけの潔いアルバムのほうが、あの黄色の斬新なアートワーク*6にも合ってたんじゃないかな。とはいえ、ライヴはもちろん観たい。『M72 WORLD TOUR LIVE FROM ARLINGTON, TX』ももちろん映画館に観に行った。実現するといいな、来日公演。


そのほか、よく聴いたアルバムはこちら。(まあ、新譜じゃないのも入ってるけど、、、)


さて、2023年もMaxwellのアルバムは出なかったな。2024年は出るんですか? まあ、死ぬまでに聴ければいいか。w

*1:18年前っていうとすなわち2005年のことで、確か憎きCCCDがかろうじて生き残ってた時代だったのかな、その後中古盤で見かけても頑なに買わなかった気がする

*2:同じ日と思われる映像 ⇒ GRAND MARQUEE presents “Arlo Parks” スペシャルライブ!

*3:『NEW VALUES』のLPを所有してはいるんだけど、全然針落としてない

*4:私はedblのことを知らず、本作で初めてその名を知った

*5:ただ、Kelelaの9月の来日公演は打って変わって超サイコーだった!

*6:真っ先に思い出したのはNOFXの2006年作だったよね